遺書

このブログは私の遺書だ。みんな……遺書を残すものなんだろう?

こんな夢を見た。

とてもホラーな夢を見たのでざっくり書き記しておく。

 

 日本でおそらく唯一、霊能力について勉強できる大学がある。そこは名だたる霊能力者が教授として名を連ね、霊能力を持つ学生たちが己の能力を磨くため、あるいは能力を制御するために日夜修行に励んでいる(オカルト色の強い幸福の科学大学みたいなものか)。

 そこに勤める女性(ドラマ・ケイゾクの木戸彩そのまんまなので以下、木戸とする)が教授から依頼を受ける。いわく、ある山奥に住む高齢の男性と孫娘が怨霊の霊障に晒されているので調査してきて欲しい、と。

「えぇ? なんでですか。あたし、霊が見えるってだけで先生みたいに除霊とかできませんよ。無理ですって。先生が行きはったらええですやん」

 木戸は大学の職員であるが、普段は教授から頼まれて授業の準備をしたり、事務仕事をやったりと、いわば雑用係の様なものだ。生まれつき霊が見えてしまうため、その霊感を制御するためにこの大学に入学して高名な霊能者に弟子入りし、修行につき、そのまま大学に就職した。霊能力については、霊感をある程度制御できる様になったという程度。この大学には高名な霊能者が多数いるため、教授たちの中には一般から依頼を受けて霊について調査や除霊を行う者がいるが、木戸の様な霊感があるだけの一介の職員が調査へ赴くことは異例中の異例であった。

 木戸は自分には荷が重い、と固辞するが、相手が悪かった。教授はのらりくらりと木戸を宥め、すかし、説き伏せて、結局彼女は渋々ながら調査へ赴くこととなった。

 彼女が向かったのは中国山脈の根元。周囲に宿はおろか、民家の類も一切ない山奥で、老人とその孫娘は静かに暮らしているという。木戸が訪れると、二人は木戸を温かく出迎えてくれた。

「よく来てくださいました。遠慮せず、どうぞゆっくりしていってください」

白髪頭の老人は穏やかな口調で木戸に微笑んだ。かなりの高齢だと思われるが、呆けたところは一切なく、足腰もしっかりしている。

孫娘は恥ずかしそうにはにかみながら木戸をじっと見ている。背中まである黒い髪は柔らかく美しい。年齢はおそらく八歳くらいだろうか。

「おそらく近隣の村の人が気味悪がって大学に依頼してくださったのでしょう。しかし、私どもは特に困っていないのですよ。よその人がいらっしゃると激しい霊障が起こるそうなのですが、私どもに対してはそういったことは一切起こりませんし。しかしながら、せっかくはるばるいらっしゃったのですから、どうぞごゆっくりしていってください。私どもにできる限りのもてなしをさせていただきます」

 老人は極めて丁寧な口調で木戸にそう語った。

 それから木戸は二人の家に世話になりつつも、この地に住まう自縛霊について調査することとなる。最初の二・三日は特に何も起こらなかった。老人も孫娘も優しく穏やかな人柄で、霊の調査に乗り気ではないとはいえ、木戸には温かく接してくれた。最初は人見知りしていた孫娘も、滅多にない来客が嬉しかった様で、徐々に木戸に心を開く様になった。

「なんか、ここまでようしてもらえると返って気が引けるなぁ。わざわざ調査に来たっちゅーのに、何も起こらへんし」

「なぁに? 彩ちゃん、何か言った?」

「ううん、何でもなぁよ」

 孫娘と二人で遊んだ帰り。くすくすと笑って、孫娘は山をぴょんぴょん飛び跳ねる様に降りていく。木戸もそれに続こうとして、背後からぞっとする様な怖気を感じて固まった。

 背後に何かいる。

「近付くな」

 声を聞いて、ばっと木戸は振り返った。

 子供がいた。八歳くらいの男の子。長袖に短い半ズボン、スニーカーといういでたち。全身から身も凍る様なオーラを放ちつつ、親の仇でも見る様な顔で木戸を睨んでいる。

「君はいったい……?」

「あの二人に近付くな」

 憎悪に染まった視線を木戸に向けたまま、少年が言う。その体はこの世のものとは思えぬほど青白い。

「彩ちゃん!」

 後ろから呼ばれて、ばっと木戸は再び振り返った。先に行ったはずの孫娘が不思議そうな顔をして首を傾げている。

「どうしたの?」

「あ……いや……」

 とっさに少年がいた方を見ると、そこにはもう誰の姿もなかった。

 それから木戸は激しい霊障に見舞われることとなる。夜中、木戸が眠っていると激しい物音がしたり、掴もうと手を伸ばしたコップが勝手に動いて床に落ちて割れたり。不思議なことに、それらは老人や孫娘がやってくると急に止むのだった。

 一般人に比べて比較的霊に慣れている木戸だが、連日おびただしいほどに続く霊障にはさすがに憔悴した。

「彩ちゃんは悪くないのに」

 孫娘は困った様にそう呟いた。彼女や老人たちは一切そういった霊障に見舞われることはない。ただ、彩に降りかかってくる霊障を目の当たりにすることは何度かあったので、それを心から気の毒がるばかりだ。

「なんであたしにだけ……もー訳がわからん」

「だって私とあの子、友達だもん。だから私とおじいちゃんには何もしないんだよ」

「友達? あの子って、あの男の子と?」

「うん。彩ちゃんが来るまでは、たまに一緒に山で遊んだりしてたんだよ」

 孫娘は無邪気に笑った。近隣の家まで数キロあるこの山奥には、他に子供がいないので、たまに現れるあの少年が少女にとっての唯一の遊び相手らしい。

 なるほど、と木戸は得心した。あの少年がこうして霊障を起こしているのだとしたら、もしかしたら遊び相手を木戸にとられたという子供らしい嫉妬心からかもしれない。

「私からあの子に彩ちゃんにひどいことしないでって頼んでみよっか? 彩ちゃんがいるから、わたしはあの子に会ってもらえるかわかんないけど……」

「ううん、大丈夫やで。ありがとな」

 彩が頭に手を置くと、孫娘は嬉しそうにはにかんだ。

 霊といっても相手は子供だ。少女が頼んだところで、木戸に嫉妬している少年が霊障をやめるとは思えない。それどころか、返って少女や老人に害意が向くおそれもある。

「さて」

 両手をコートのポケットに突っ込んで、木戸は今回の調査を依頼してきた教授の顔を思い浮かべた。あの食えない昼行灯が自分をここへ寄越した理由がなんとなくわかり始めていた。

 

 

 

 

 

まだまだ続きがあるんですけど力尽きたのでここまでとします。気力があったらまた書きます。